「うぉ~っ!!」
僕は急いで立ち上がり、右手を突き出しました。
割井君に当たらなかったどころか、顔にパンチをされました。
「はははは! お前が調子に乗るからだ!」
「まだだ!!」
僕は同じことをしてやりました。
反撃してくると思っていなかったのか、もろに当たりました。
「やりやがったな~!!」
今度はキックです。
次は避ける事ができました!
そうして、数分の時間が経ちました。
お互いボロボロ、息も絶え絶えで向かい合っています。
何度も諦めようと思いましたが、痛くても痛くても立ち向かいました。
「な、な。俺が悪かったよ。もうやめないか?」
僕も相手も涙目です。
最初に音を上げたのは割井君のほうでした。
「じゃあ……機械を返してよ!」
「わかったわかった! き、今日の所は勘弁しといてやる!
ほらよ、これだけどよ……悪かった。
どうやっても使えねえから腹が立って壊しちまった」
割井君は跳び箱の後ろからタカシを取り出し、渡してきました。
どこかに叩きつけられたようにひび割れて、滅茶苦茶です。
誰が見ても、もう使う事ができないとわかりました。
「そんな目で見るなって! すまん! ごめんよ!!」
割井君はそう言い残し、逃げて行きました。
「勝った……でも……」
僕はショックでひざを突きました。
タカシとはもう、話せない。
泣きながら機械を抱きしめると、部品がぽろっと落ち、中の機械がむき出しになりました。
そしてそこには小さな紙切れが貼り付けてあり、どこかの住所が書かれていました。
ここに行けばタカシを直してくれるかもしれない。
そう思った僕は、怪我の治療もせずに、走り出しました。
さいわい、学校からそう遠くない場所でした。
十五分くらい走ったでしょうか。
住所の場所には小さな病院がありました。
「タカシ……?」
「君、タカシ君の知り合い?」
僕が呟くと、後ろから看護師さんらしきおばさんに聞かれました。
「タカシと……話せるの?」
「まあ! そんな事よりなんて怪我なの! 来なさい!」
僕はおばさんに強引に手を引かれ、病院に入りました。
入ってすぐの部屋に放り込まれると、治療してもらいました。
消毒液は痛かったけど、割井君に殴られるのに比べたらへっちゃらです。
「タカシ君から聞いてるわ。ついてきて」
黙っておばさんと歩いて行くと、一つの病室に辿り着きました。
引き戸を開けると、中はベッドと棚が一人分あるだけの、小さな部屋でした。
ベッドには、僕と同じくらいの年の男の子が寝ていました。
男の子は僕たちに気が付くと上半身を起こし、こっちを見ました。
「お前、誰だ?」
「……タカシ」
ずっと聞いていたあの声。
間違えるわけがありませんでした。
僕は病室に飛び込み、男の子に抱き着きました。
……その後、その子から説明を受けました。
「トモヤが本当にいるなんて思わなかったぜ。
俺、入院生活が長くて学校の友達もいなくてさ。
そんな時、あのおっさんと約束して、機械を貰ったんだ」
「約束?」
僕と同じだ。
「ああ、病気を治すための大きな手術。
怖くて嫌だったんだけど、それを受けるって約束。
その代わりに、友達になってくれる機械をくれたんだ」
あれだけ長く話していたのに、僕らはお互いを機械だと思っていました。
不思議な話です。
「病気が治ったら退院できる?」
「ああ、明日受けるんだ。でも、まだちょっと怖いな」
タカシはうつむきました。
「大丈夫」
「え?」
「友達が、ついてるから」
僕らなら、どんな困難にでも立ち向かえる。
なぜだかそう思えました。
窓の外には、綺麗な夕焼けが輝いていました。
-TRUE END-
「いやぁ、彼らに無事、友達が出来て本当に良かったです。
え? 私が子供にだけ優しい、ですって? いいえ違います。
私は約束を守る人にだけ優しいのですよ……」
尾足はそう言い残し、闇の中に消えていった。